二重の驚きに戸惑う僕を見てか、ロク婆さんはマイ酒を飲まないかと勧めてきたが即座にお断りした。


「すいませんが、まだ未成年なんですよ、僕」

 在り来たりな理由しか言葉にできない自分に、少しだけ平凡だなと感じた。

「ミセイネン?」

 丸い目をさらに丸くさせ、目の周りの小皺を一層増やしたロク婆さんは、まるで初めて聞いた言葉を反復するように呟いた。

「ええ、法律で決まってるんですよ」

 それくらいは分かって欲しいという願いを込めて、僕は胸の周りを手で回すという意味のないジェスチャも添付してみた。

「やれやれ、ボクは大人じゃないってかい。それじゃあ、いつ大人になるだい?」

「そ、それはやっぱり二十歳なんじゃないですかね。なんと云うか……」

「法律で決まってるから?」


「そう、その通りで」


 なにか不味いことでも云っただろうか。暫し自分の発した言葉の端々を模索していると、表情が険しくなったロク婆さんが視線に入ってきたので思わず目を反らせた。

 「あぁ」とロク婆さんの短い唸り声が聞こえ、バミューダ海のような深いため息が聞こえ、ついには皺だらけの顔を両手で頻りに掻きだした。