今宵も星雲



「じゃあ、僕はこれで。他の二人にもアイス、おねがいしますね」


「うん。サンキュー」


 カシオの電波式腕時計を一度確認し、戸に向かうのと戸に手をかけるのと同時に、戸が勢いよく開いた。


「あっ、宗治じゃねぇか」


 両手に持ちきれない数のプラモデルの箱を抱えた青田さんが、箱の壁の向こうからしゃがれた声を出した。彼もメンバー(三○六号室)のうちの一人だ。


「わ、青田さん。それ、すごい数じゃないですか」

 青田さんは大のプラモデル好きで、特に戦艦や戦闘機のモデルに凝っていた。軍物好きな背景には、彼が戦争に参加したことも関係があるように思える。

「これな、今月の分だよ。あ、ちょっとそこ邪魔だから」


 足首を器用に使い、戸を閉めた青田さんは僕を横切って自分のベッドまで歩いていった。おぼつかない足取りだった。

 青田さんには生まれつき右足に障害があるのだが、彼の入院とはなんの関係もない。それに彼は足が不自由だとは思っていないくらい、実に自然な歩き方をする。(彼にしてみれば全て自然なのだが)