「お、ハズレだね」
恵比寿さんがにやにやとした笑みを浮かべながら、僕の持った棒きれを指さした。ハズレ、何故か自分自身がハズレと言われている気分になり、嫌気がさした。
「秀一爺さん、最近どうですかね?」
秀一爺さんは僕が来るときにはいつも以上に陽気に振る舞うから、彼の容態を聞くには悪友に訊ねるのが一番だった。
恵比寿さんはアイスを少しずつ舐めながら、スリッパに指先を通し立ち上がった。
「秀ちゃんは相変わらずだよ。この病院の人気者、ヒーローだね」
何の恥じらいもなく年に相当しない幼い話方をする恵比寿さんは、ピグミーマーモセットみたいに可愛らしかった。
「ヒ、ヒーロー……ですか。海賊の間違いじゃないんですかね」
無精髭を触り、なんでも見透かすような目で遠くを見つめる秀一爺さんは、僕にとっては義足をつけた海賊そのものだった。すぐに彼の不敵な笑みが思い浮かぶ。
「宋ちゃん。海賊はヒーローじゃないの」
恵比寿さんがあまりにも真面目な顔で言うものだから、あながち間違いでもないのだろう。
