ふとアイスのコンディションが心配になってきたため、病室に戻ることにした。
三○六号室。達筆でそう書かれたプラスチックプレートが戸に掛けてある。
患者メンバーは、青田 祐二、増島 啓介、恵比寿 義昭、そして軽井戸 秀一の四人編成だ。
「あ、宋ちゃん」
僕が病室に入ったところで、すぐ右にいた恵比寿さんに声を掛けられた。
「どうも、恵比寿さん。元気そうですね」
恵比寿さんはそうかなぁと褐色の良い顔を撫でつつ、布団から少しはみ出した釣り竿をこっそり隠した。彼は病室を抜け出す常習犯だった。
「また、こっそり釣りですか」
呆れ気味の声で言うと、恵比寿さんは照れ笑いしながら「最近体が鈍ってねぇ」とつぶやいた。
どうやら今帰ってきたらしく、幾つか水滴が落ちていた。
「あれ、秀一爺さんは」
「ああ、秀ちゃんならきっとご飯食べに行ったよ」
恵比寿さんが腰を据えるベッド以外もぬけの空になっていた。どのベッドも汚く、思い思いの品が雑に置かれている。
僕はアイスの入ったビニール袋から棒アイスを二本取り出し、その片割れを恵比寿さんに手渡した。彼はバニラ味が好きだった。
