アホロートル

雨は嫌いだけど、雨上がりの空はどうしてこうも青々としているのだろうか。

その先遥か遠くに存在する宇宙を思わせるようでいて、ただ虚しく淋しい気持ちにもさせる。

雨の日の次の日は、美しくも切ないのだ。

複雑な気持ちで通勤すると、栄介の気持ちをより一層落としてくれるものがあった。

それは、店の壁中に貼られた胡散臭い野球選手のサインでも、店主の中川のセンスの悪い柄のシャツでもなく

小花柄のストールだった。

それも、見覚えのある。

『昨日おじさんが長く引き止めちゃったから、スーちゃん忘れちゃったんだろうね。』

昨日、スーちゃんは髪を切り終わったあとしばらく、牛革のソファで中川と談笑していた。

定位置を奪われた栄介は散髪チェアに座り、テレビを見たり、時々二人から振られる話に適当な相づちをうっていたのだ。

昼過ぎから、店が閉まるギリギリまでスーちゃんは牛革を占領し、店中の笑いや音や空気をすべて占領し

最終的に、あの小花柄のストールを落としていったのだ。

『あんまり、大事なものじゃないんでしょうね。』

栄介の言葉は、本心であり、この後中川が丸眼鏡をくいっとあげながら言うであろう言葉を防ぐためのものでもあった。

案の定、

『栄介くん、また持っていっておやりよ。スーちゃん、お仕事してるからなかなか取りに来れないだろうし。ね。』

唯一予想と違ったのは、その言葉を吐く時中川は丸眼鏡をはずしていたことくらいだった。