アホロートル

土曜日。雨が降っている。強く、騒々しい雨。

客の靴についた雨だとか、異常な湿気だとかで、水分を含んだ店の床を掃く作業は本当に面倒臭い。

栄介は床にこびり付いた髪を掃きながら、目の前に座る、雨を店に連れてきた客を軽く睨む。

場違いな奴。そんなことを思った。

『おじさん、通りの角にケーキ屋できたの見た?』

雨音をかきけすような、それはそれは騒々しい声で話す、場違いな客。

それを栄介が場違いと感じる理由は、雨が降っているから、だけでないことは、この店内を見渡せば誰もがわかるはずだ。

壁中にプロ野球選手のサインが貼られた理髪店の椅子で髪を切られる、女性。

『見てないねえ、スーちゃんは見たのかい?』

水色のシートを着た、真ん丸のショートカットが、てるてる坊主のように見えて、それはより一層場違いに見えるのだった。