玄関の扉を開けた男は目を細めた。 それはチャイムの音に起こされ瞼が重たい理由もあるが、起こした張本人である玄関先に立つ人影をよくよく見ようとするためでもある。 見知った、そして意外な客人の首筋から、再び春の風が通り過ぎる。 同時に男の鼻腔を、ほのかに彼女の煙草の香りがくすぐった。 月がない所為か、暗闇の中、男から女の表情を読み取ることはできない。また、もし顔を見ることができたとしても、仏頂面の強面が浮かぶだけ、だっただろう。 何を考えているのかわからないまま、女の唇が微かに動いた。