「灰谷く…!」
そう叫びそうになったマキちゃんに
私の隣に座っていた『彼』は
人差し指で "シーッ" っとやった
慌ててマキちゃんは
自分の口を抑える
「……灰谷君こそ
なんでここに………?」
『彼』は、黙って
顎で、 目の前、
スクーターを示した
「…あれ…なの……?」
「車種、番号、同じ」
「……………」
――お尻で携帯が鳴る
皆、飛び上がって、
私は物凄い早さで、一回切った
「ユリちゃんだ」
マナーにして
自分からかけ直した
「……もしもし ゴメン」
『…ユカちゃん…?』
「うん」
どうしたんだろう
…声が硬い
『……そこに、灰谷クン、居る?』
「…う…うん」
『代わって貰えるかな…ごめんね』
「うん」
「…ユリちゃんが、代わってって」
『彼』は一瞬、
不思議そうな顔をしたけど
少し目をきつくして
携帯を受け取った
『…はい』
――少し経って
『彼』の目が、少し光った
携帯を持ち替えてる
そしてボタンを押して
私に、返して来た
……切れてる
もしかして
「青山さんに何かあったの?!」
『…何もないよ』
「…じゃあ何でそんな顔してるの?!」
『…ちょっと寒かった』
「暑いよ!……!!」
マキちゃんと『彼』に
口を押さえられる
「……ご、ごめ…」
「…でも灰谷君、今凄い顔してたよ?
何か…起きたの?」
―― 『彼』はしゃがんだ膝に
肘を落として
指を口の前で、交差させる
『……これ
俺達が思ってた事と
全然、違う事かもしれない』
「……へ?」
「どういう事……?」
―― ペンキの匂いで
少し、むせた
『彼』は珍しく
私達の顔を、凝視している


