Turquoise BlueⅡ 〜 夏歌 〜




シノの家は
結構広い、日本風な御屋敷で
近所では『篠原御殿』とか呼ばれてる

昔ここら辺に豪族がいて
城主をしてた子孫とか言ってた

白い門の横、
小さな扉を開けて、五人頭をくぐらす
木戸が開いて、一番最後に
シノが鉄の棒で鍵をかけた


丸い、手入れされた庭木が
少し光って、闇の中

家の縁側は、レースのカーテンが閉められていて
クーラーの室外機が回ってる


一階からの
部屋の蛍光灯から照らされる
平たくて丸い敷石を歩いて
玄関に向かおうとしたんだけど

シノが『こっちこっち』と
燈籠みたいなランプから
水が出ている池の横で

一人だけ
進路を違えてた私に、
笑いながら手招きした


……シノには高校受験の時
勉強を教えて貰った

お互い、家を行き来した時に
私はこの家の二階の
シノの部屋の和室に通されて、
"父親の手作り"とか言う
茶色い焼き物のカップで
挽き立ての、苦いコーヒーを飲んだ


庭の奥に進むと蔵がある

シノは『ガラクタ置き場だよ』と
笑っていたけど
ウチのお父さんに因れば
"かなり
歴史的価値のある物で
埋まってるんじゃないかな"と言ってた

竹林があって、少しの空き地
前はそこに
ブランコと(もちろん乗りましたとも
自転車が置いてあった

……んだけど


――― ブランコは消えてて
プレハブの小さな平屋

シノは鞄から鍵を取り出すと
その中に入る

小さな窓に、明かりが着いた