マキちゃんが
「…灰谷君!!」と小声で叫んで
一度、周りを見回して
『彼』の腕を掴み、
人影の無い、自転車置き場の木陰に
引っ張って行った
『彼』は連行されるみたいに
その腕に連れられて行く
私達三人も
小走りして、その後ろに続いた
マキちゃんは
自転車の並ぶ1番暗い場所
そこを抜けると公園になる水銀柱の下で
走るのをやめる
振り返り、『彼』を見て
「…青山さんの様子は?!」と
真剣な黒い瞳で問う
『彼』は
腰の後ろに両手を充てて
当たり前の様に
『…普通だよ』と
呟いた
『…パニックとか起こすとか
慌ててる訳じゃないし
皆と普通に笑って
仕事も、別のベースは
今何本か持ってるから
それ使ってやってるけど
……怖い
ベースがあの人を繋いでいる
たった一つの鎖なんだ』
ユリちゃんが
「…灰谷くんは
どうしてここへ?」
『彼』は
強い目で一瞬、私を見て
すぐに視線をユリちゃんに返した
『…コイツが
泣いてるかもしれないと思ったから』


