Turquoise BlueⅡ 〜 夏歌 〜





―――土曜の夜中の
音楽のランキング番組で

『Azurite』の
新作プロモーションビデオが流れた


お父さんもお母さん
加えて弟も
起きて、リビングのソファーで
食い入る様に見ている



――― 画面はモノクロ

長く白い髪
黒い甲冑を着た『Azurite』が
体中に返り血を浴びながら

中世みたいな戦場の中、
剣を持ち
大勢の敵と切り合いながら、
駆け抜ける


――豪雨と雷が光る深い闇の森を
片目だけ、
包帯みたいに布きれを巻いて
泥にまみれ、独り、さ迷い
敵に囲まれ、これで終わりかと
思った瞬間

彼女は崖から、身を投げた


――― 暗闇の中を

一匹の、揚羽蝶が
画面を覆う様に、
光る燐粉を振り撒き、舞う


気が付けばそこは
どこか小さな、学校の図書館

――― 顔は判らない女子高生が
誰か男の人の手に起こされて
目を醒ました


その手元には
飾り模様の付いた、厚い表紙の本

……女の子は
立て掛けてあった楽器を持って
少し、考える


剣と楽器ケースのオーバーラップ


"…どっちが、ホントの世界?"と
女子高生は呟く


そして白く細い手には
細い、切り傷

それに気が付いた彼は
"本で切ったんだ"みたいな
アクションで
ハンカチを巻いてあげた



―――途端に画面は戦場に変わり
真っ白な霧の、森の中


川に流され
そこに辿り着いた、満身創痍の
女戦士


木の影からの気配に
それでも再び、剣を構え
戦おうとする

――現れたのは
鼻から上は、画面の外で見えない
見るからに強そうな
黒い甲冑の男



台詞は無く、口だけの動きで


"…やっと見つけた…"


瞳を見開く彼女は
もうさっき迄とは違う
『女の子』の顔で――


駆け出した男は
愛しそうに、彼女を抱きしめた


彼女は剣を捨て
そのキスを受ける――――


………所で、
画面は変わってしまって

野外での
夏フェスのライヴ画面


「…ちっ 」っと言ったら
笑いながらお母さんに
お尻を叩かれた