―― トイレから出た外
男子と女子トイレの入口から
少し壁があって
格子みたいに穴の空いた
模様の隙間から、
そっと向こうを覗いた
「……あずるが、そう言うなら」
―― 青山さんは
腕を組んで、ニッコリ笑わない
そのかわり
少し興奮したみたいな
ニヤッとした
薄い笑いを浮かべた
…真剣な顔をしてたアニキが
「……オメエは行けるよな
結局、青山も同じ
…"音の、怪物"…
そして池上は…
アイツは努力も相当するけど
『天才』なんだよな…」
『…真木さんだって
努力してるじゃないか 』
「…ここからは
努力がどうのって世界じゃねえんだよ
――努力なんかして当たり前だ
上手いとか、
その上の、天性のモノ
それがより、重要になってくる…」
「な〜にイジケてんの?クウヤン」
「なっっ!!?イジケてねえよ!
本当の事言ってるだけだろうが!」
「そりゃあ
世界中のドリーマーが
集結する街だもの…
自分より長けた人
見たことも無い才能のある人に
出会っても当然じゃない
それに
何のかんの言ったって
僕らは彼女を、
追わずには居られないしさ
ね? 土方さん」
「…土方とか言ってんじゃねえよ
そしてソコから覗いてるデバガメ!!
とっとと戻るぞ!!」
「 うあ 」
――― アニキはツカツカと大股
池上さんは後から追い付いて
その肩に、腕を廻す
池上さんは、もう片方の腕で
青山さんの背に、手を廻した
青山さんは
少し後ろを振り向いて
「 灰谷 」と笑って呼び
その声でやっと
『彼』はゆっくり、歩き出す
さっきとは打って変わって
笑い合う、皆の背中を見て
―――やっぱりこの人達は
スゲー カッコイイ
そう思う
『……ユカ !』
立ち留まって
『彼』が私を見て、呼んでくれた
ブーツの音は しなかったけど
『彼』の灰色の目と
その声が
ずっとずっと、
耳と目の奥に、残ってた――――


