―― 投げる…!!
そう思って、口を大きく開けて
立ち上がった
見るとレスポールは
まだ、黒い空と海の境で
青山さんの、右手にあった
―――マキちゃんが
大声で泣きながら
青山さんの腰にしがみついていて
私も慌てて
波の寄せる浅瀬まで
サンダルに素足のまま走り寄った
「…タカコちゃん」
マキちゃんは師匠の言葉に
腰にしがみついたまま、
泣いて答えない
「人に渡す って言うのは
……こういう事なんだよ 」
途端にタカコちゃんの泣き声が
号泣に変わって
青山さんの、去年、車の中で聞いた
"一度きっぱり、音楽辞めたんだ"
それを、思い出した
レスポールを海に投げようとした
青山さんの、あの目は
あの映像のライヴの目と
同じ色と、火みたいなものを
宿してたんだ ―――


