「 岡田さん 」
そう呼ぶと
かなりぎこちなく、
こっちを振り向いた岡田さんは
煙草をくわえながら
また視線を、海にかえした
「……いつも こうだ」
「 ? 」
「…アズの事だけは
うまく…口説け無い 」
「……口先だけで説き伏せて
何とかなるとか思ってるほーが
甘いんですょ
口説かれたい人が
口説かれる為に集まる場所で
通るやり方でしょ?
そんなもん、最初から
成功率高いんですから」
「……何よ 結構言うね」
「だって…
私『彼』に…
口説かれた事なんか
一回もないけど
好きになりましたよ?」
「………………
…離れてるし
俺がどれ位アズを思って
七転八倒してるかなんて
わからないだろ」
「そりゃわかりませんよ。
こっちが勝手に
暴れてるだけなんですから…
――やっぱり
さっきのあのセリフは
謝らなきゃいけないと思います
だって
思うんですよ」
「…何よ」
「もしアズさんが
岡田さんを選んで…
『Azurite』をやめて
フツーに戻ったとします
岡田さんの『傍にいてほしい』って
こゆの含め、ですよね?きっと」
「………で ?」
「…もし…
青山さん達から離れて…
夢を追う岡田さんと二人
どこかで、一緒に暮らして
アズさんも働く事になると思うんです」
「…あいつは家に居させる」
「閉じ込めるの?キモいですよ
買い物とかは?
気晴らしに街とかは?」
「…俺が全部一緒にやればいいだろ」
「……仕事は?」
「…………」
「顔が見えないネットの世界でも
アズさんは人気者だったんですよね?
…コンビニだって
働いた先にも男の人、いっぱいいるし
道にだって
その中の誰も、
アズさんを好きにならないと思います?」
「……君こそ大丈夫なのか
彼氏、あの人だろ」
――そう言って
こっちを
不安にさせる様な笑い方
感情剥き出しの、
覗き込むみたいに
茶色い二重の目


