Turquoise BlueⅡ 〜 夏歌 〜



「ど、ドコ行くんですか?!」


「だから海水浴だって

元々今日は、
その予定で集まったんだから
トオヤとボウズと青山がすぐ来る」


Jemuの前で
アニキはシャツを翻しながら
横道に入って走って行く



……私は
一人で、身を固くしてた

だって――『彼女』が来る

自分の中での最大の『敵』
…しかもラスボス級

CDやテレビ
ライヴでしか知らない

直接話した事も無いのに
―私の中では、随分まえから
あんまり好きじゃない人……




新宿Jemuな前
あかりも、お客さんの影もない
排気ガスやらで煤けた壁は
地下への階段に
貼られたポスターの山が無ければ
周りの雑居ビルと変わらない

――まだ午前中の裏通りは
セミの声と
表通りを走る車の音しかしない



そんな中を
…少し
サンダルを引きずる様な
パタパタと、小走りの音



「……"ユカちゃん"!!」


体が跳ねた

――――――あの『声』


振り向くのに
五秒位かかった



……足が真っ白で、びっくりする


ミュールとか、履いて来るかと思ってた

…なのに健康サンダル 茶色。

お母さんが着そうな
寝巻生地みたいな
青いチェックの、七分丈ズボン

上は真っ白い、ただのTシャツで
…前髪だけ、ゴムで留めてる

お風呂あがりっぽくて
まだ薄い色のベリーショートは濡れてた

スッピンなのに
…何この綺麗さ

その視線は
テレビで見るみたいな強さがなくって
初対面の私に気を使ってくれてる感じ

青い目が、
ゼリーみたいに透けてる


「…えと… あずる と言います!
リュウジと、灰谷くん
すぐ、来るので
暑いから、コンビニ入ってなさいって」


……先に走って来てくれたっぽい


「…はい」


―――返事をしたら
ふにゃっと、満面の笑顔をされて
またビクつく

…一個一個の印象が強くて
凄く、困る

どう対応していいか、わかんない

クラスにこんなコいないもん
――今まで会った中にも…

手の中に、汗、かいてきた…