「…今は、夏休みって事だ。」
「……へ?!」
「オマエ、今年 海水浴行った?」
「こ 今年は一回も……」
"アニキ"は
『ならちょうどいいや』と言い
片足を揺らしながら
携帯に、耳をあてる
「あ、ボウズ?」
「―――― ?!」
テーブルと
空のパフェの器が
ガシャンと音をたてた
自分で足をぶつけた音
自分でも予測しない動悸
………額に、一気に汗をかく
「そっちに皆いる?
…ゴメンって
途中で、知り合いに会ってさ
車出してあるから
そそ そこだと面倒だから
Jemu前まで来いよ
―― う〜ん
鮭多めで。あ、ちょい待って
…うるせえな
デコピンすんぞ」
――"アニキ"は、
乱暴な言葉を使いつつも
今まで一回も見た事が無い
ほどけたみたいな顔で笑う
…歯並びが目茶苦茶良いとか
伏し目がちになると
睫毛が長いとか
マキちゃんに凄く似てるけど
目の力が強いって
ずっと思ってた
―――あの人達は、皆そう
「おい ぼーっとしてねえで行くぞ!
パフェは…全部食ったな おし。
階段気をつけて来いよ
Jemu前行ってろや」
「え?!え?!」
「三枝!サンキューな
旦那によろしく!」
私は慌てて"アニキ"の後を追う
カウンター席の奥
小さな厨房で、コーヒーを挽いてる音
三枝と呼ばれた女の人は
まだ若い感じの、
…私が言うとおかしいけど
街に、いっぱいいるタイプの女の人
でも
こっちを見て、
ニコリとお辞儀してくれた顔は
やっぱりなんだか大人で――
私も出口に向かいながら
焦ってお辞儀した


