着いてしまったら
さっきの場所の事なんか忘れてしまって
その場所の良さに、もう夢中になった
「……相当近くない?!これ」
ちょっとマキちゃんが小声で
「…二列目迄だと
席が低いのと、近すぎて、
少し見上げるみたいになっちゃうんだね」
『…おおぉう』
一列目とステージの間には
沢山のスタッフさん
耳からのマイクを充てた男の人達が
走り回ってる
なんかウキウキして
ジッとしてられなくなって
私は
「パンフレット買って来たい!」と
席を立った
けど、その振り向いた景色の中に
"見つけてしまった"
席が埋まり始め
皆話したり、携帯を見たりしてる――
ステージの柱の奥
………一瞬だったけど
『彼』が居たのが判った
すぐ引っ込んじゃったけど…
――見間違いかな…
心臓が早くなって、痛い
本当に、キュウっと、なる
「―…今、誰か居なかった?」と
横の女の人
「え?わかんない」と
彼氏らしき男の人が
手元を見ながら答えてる
…その女の人も
"はあっ"て息を一つ、吐いた
この人もきっと
………『彼』が好きなんだ
好きな人をすぐ見付けるのは
女の子の特殊能力
"私はファンじゃなくて
ホントに好きなんだぞ!!"って
もの凄く、強く思いながら
通路階段を、二段飛びして
駆け上がった


