少し薄暗い館内。

水が光を反射して、彼女の頬を照らした。

平日の水族館は閑散としていて、見渡せる距離には、僕と彼女しかいない。



どこか――そう、外界から隔絶されたような世界で、食い入るように彼女は巨大な水槽を見つめている。

その中では小さな魚が、銀の体をきらめかせて無数に泳いでいた。

食い意地のはった彼女のことだ、今頃頭のなかでは、アジのフライがおいしそうな香りを立てているのだろう。

かくいう僕も、水槽よりも彼女の頬がうっすら青く照らされる様子を見ているのだから、人のことは言えない。



「ねぇ、トモ」



水槽を見つめたまま、彼女が僕を呼んだ。

僕も彼女と同じ世界に目を戻す。



「浦島太郎って、竜宮城に行ってる間、行方不明だったのかな」