……ちょうど三ヶ月前。



「また明日ね!」
そう言って私は恭子といつもの交差点で別れた。
彼女は私と同じ探偵事務所で勤務している。
いつもそこから一キロ先の交差点まで一緒に帰っているのだ。

連続女性殺人事件の犯人が、ヴァンパイアの仕業だと突きとめたのも実は彼女。
私はヴァンパイアなんてものがこの世にいる事自体信じられないでいた。


そう……恭子が殺されるまでは――。


私は彼女に資料を渡しそびれたことに気づき、慌てて交差点へと戻った。
そして、彼女の家に向かって細い路地を入った時……。
時刻は日付が変わろうとしていた頃だったと記憶している。


「あなたは誰……?」
そこには傘も差さずにずぶ濡れになった青年が呆然と立ちつくしていた。

「遅かったか……ちくしょー!ソイルの野郎っ!!」

オソカッタ……?ソイル?



拳を地面に叩き付けて悔しがる彼の視線の先には、女性が一人俯せに倒れている。
側には彼女の差していたハズの透明のビニール傘が無造作に転がっていた。




『恭子……!!??』




「恭子~っ!返事してよ!!目を開けてよ!!どうして何も言ってくれないの!!いつもみたいに私に言ってよ!!『おはよう』って……恭子、恭子、きょうこぉぉぉぉぉ~っっっ!!!!」

雨は何もかも知っているかのように……。
全てを洗い流してくれる。


私の涙も、そして地を染める真っ赤な血も。


「俺の名は如月流偉。お前もこの娘と同じようにソイルに殺されるかもしれない。だから……俺がを守ってやる!力になりたいんだ」
彼の差し伸べてくれた大きな手は雨の滴を受けて濡れていた。

でもとても温かくて……。


優しかった――。


その日を境に私は、彼女の仇を討つために流偉と組むことを選んだ。