晋也さんの車は、あたしの大好きなブルガリの香水がほんのり香る。
研修とかのあと、あたしはよくこのブルガリの香りに包まれて晋也さんの家に行く。
「お母さんのお見舞いは? 今日行った?」
「うん、今日の研修が始まる前に。 終わんの遅くなりそうだったし」
あたしのお母さんは、去年肺癌だと診断された。
肺に癌の腫瘍がある場合、手術での摘出はほぼ不可能なんだって。
だから、今はただ死を待っている状態。
できるだけ安らかに一生を終えられるように治療をしてもらってる。
去年医者の口からそう言われた時、ホントに気が狂いそうになった。
自殺未遂みたいな事もした。
でもそれでも、晋也さんが支えてくれたから、あたしは今日という日を送っている。
あたしは窓の外を眺めた。

