「そ、そんなに、い、いい匂いしたの、か?」


言葉を詰まらせながらも話を広げるような質問を投げかけた永倉に、藤堂は目の前にいる隊士に気付かれないよう、ドスッと永倉の背中を殴った。


「いてっ!」

「永倉副長助勤、どうしたんすか?」

「大丈夫ですか?」


突然、悲痛な表情をして背中に手を回し悶える永倉に、二人の隊士は怪訝そうに訊ねる。

どうやら藤堂の拳は見られなかったようだ。


(永倉さんもよく考えればいいものを…)


その様子を目撃していた斎藤はあまりにも馬鹿馬鹿しくて、小さく、誰が見ても判らない程の溜息をついた。


永倉が藤堂に何か言おうと口を開きかけたその時、タイミングを見計らったように、藤堂は隊士と永倉の間に入り込んだ。


「新八のことは気にしないでさ、男でもいい匂いする奴はいるよ、ねっ、はじめ?」

「……そうだな。それよりもいいのか?昼餉の時刻だぞ」


斎藤の言葉に隊士二人は「あ、やべっ!早く行かなきゃ無くなっちまう!」と言い、三人に慌て挨拶をすると、バタバタと大広間へ走って行った。


「俺も行くか」


そう言って門に向かって歩いて行く斎藤に、藤堂はあれ?っと首を傾げる。


「はじめ、昼餉食べないの?」

「…任務だ」


振り返らずに言った、すらりとした斎藤の後姿を見ながら、藤堂はふと思い出した。


「あぁ…あれか。また土方さんの機嫌が悪くなりそう…」