芹沢の行動に、周りにいた力士達の顔は一気に青ざめる。


自分達の目の前に横たわる仲間の身体。


信じられなかった。


だが、身体からどくどくと流れ出る紅い液体は、力士達に現実だと突きつけるのには十分過ぎた。


「…おい!熊次郎!大丈夫か!?」

「返事をしろ!」

「熊次郎なんか言えや!」


力士の面々は口々に斬られた仲間に声を掛けるが、返事はない。
ただ苦しそうな息遣いが返ってくるだけ。


その様子に沖田と共に現れた斎藤と島田と山南、そして永倉は顔を顰めた。


「くそっ!人斬りがっ!」


一人の力士が棒を大きく振り上げて芹沢に向かってきたのをきっかけに、他の力士達も此方に襲い掛かってきた。


「どうする、永倉さん」


すっかり顔色の良くなった斎藤が永倉に訊ねた。


「どうもこうも刀持ってない奴を斬るわけにはいかないよな」


そう言って永倉は、自分に棒を振り下ろしてきた力士を気絶させた。

身体が大きい為か、力士の動きは大振りで気絶させやすかった。

優真は鞘から抜かないまま応変し、他の者も次から次へとがむしゃらに棒を振りかざしてくる力士に対応する。





その場が静まる頃には、辺り一面に巨体がごろごろと転がっていた。

何人かは斬られたらしく腕や足など所々血を流している者もいる。


「はぁ……、近藤さんに報告しないと」

「土方さんに知られたら………うぅっ…考えただけでも恐ろしいぜ」


優真が呟いた言葉に対してそう言った永倉は、ぶるっと震えた身体を自身の両腕で包み込む。


「今回のことはあちらが仕掛けてきたことだからね、土方君も判ってくれるよ」


山南はそう言って優真と永倉に、ふんわりと優しく微笑んだ。





この大坂力士乱闘事件は、文久三年六月三日のことだった。