“芹沢先生がお呼びだ”


芹沢一派の平間からそう告げられたのは、申の刻(十六時頃)の事だった。

先日作られた、浅葱色に袖口は白い山形の段だら染めが施されている隊服に身を包んだ優真が巡回から戻ると、待っていましたとばかりに吹出物でぶつぶつの顔をニタリとさせながら平間は優真に近づいてきた。


「何でしょうね?」

「多分呑みに行くんだと思うよ。前に、次は行くって言っちゃったから今回は行かないとね…」


一緒に巡回に出ていた信太郎にコソコソと訊ねられた優真は心底嫌そうな表情をしながら小声で応えた。


筆頭局長である芹沢は一度機嫌を損ねると手がつけられなくなる。
もし優真が断る事で憤怒し京の街で暴れられでもしたら、たまったもんじゃない。

只でさえ壬生浪士組は“壬生狼”や“人斬り集団”等と言われ京の人達からの評判は悪いというのに。


「それじゃあ其処に来いよ。必ずな」


平間はある茶屋の名を言うと優真の肩をポンポンと叩き、去って行った。
その後ろ姿を優真は眉を潜めて見送る。


「先生、僕も一緒に行きます!」


心配そうに優真を伺う信太郎に優真は首を横に振る。


「いいよ。呼ばれたのは私だけだし呑むだけだからね。信太郎は屯所でゆっくりしてて」


信太郎を安心させる為に明るい音色でそう言うと、優真は自室に向かって廊下を歩き出した。