腕の疵も完全とは言えないが治った優真は屯所の廊下を足早に進んでいた。手には握り飯を大事そうに抱えている。


総司がしつこいから遅くなった…。
早く行かないと待たせちゃうよ。


台所での事を思い出して優真は溜め息をついた。


先程台所で優真が昼餉の残りを使って握り飯を作っていると沖田がやって来て、その握り飯をどうするのかと訊ねてきた。それに対して、食べるに決まってると応えた優真。




「誰が食べるんですか?」

「え?私だよ」

「…そうですか。じゃあ最近昼餉の後に握り飯を持って何処に出掛けてるんですか?」

「散歩だよ、散歩」




総司しつこい…。

面倒だなぁ、こうなると納得するまで食い付いてくるんだよね。




「へぇ〜。そう言えば竹刀が二本消えたんですよねぇ…優真さん知ってます?」

「知らないよ。じゃあ握り飯も出来たし出掛けようかな。じゃあね」




沖田の妖しい微笑を見ないようにし、優真は自ら墓穴を掘る前に一刻も早くその場を立ち去るべく強引に話を終わらせ台所を出た。

後ろで沖田が何か言っているのが聞こえたが無視してき、今に至る。




あぁー帰ってきてからも何か言われそう。


その様子を想像した優真は顔をしかめて再び溜め息をついた。と、屯所を出た所でそんな優真に声を掛ける者がいた。




「その様な顔をするとお主の可愛い顔が台無しだぞ」




こんな時にこいつに会うなんて今日は厄日?


優真の目の前には何時もニタニタした笑みを浮かべて優真を見る芹沢鴨が立っていた。その背後には常に芹沢と行動を共にしている新見錦、平間重助、平山五郎、野口健司もいる。