東京のとある高校の図書室。
窓を通して見える空は既に闇色に包まれ、静寂を保つ室内は誰一人居ないように思われる。

――しかし。
そんな部屋の入口から離れた窓際の席に、彼女は居た。


先程から勉強道具が散らばっている机に頬杖をついて、じっと外を眺めている少女。

立花優真、それが彼女の名。

長く艶やかな黒髪をおろし、意志の強そうな大きな瞳は他人よりも優れた視野を通す。 そして印象的な右目尻の小さなほくろは少しの色香を漂わせていた。


疲れた目を少しでも和らげようと優真は目を閉じる。


高校三年生になって早二週間が過ぎようとしていた。

優真の通っている高校は進学校、殆どの生徒が進学希望者だ。 優真もまたその内の一人であるため、最近はもっぱら放課後は図書室で勉強するという習慣ができつつあった。




「――あれ…」


ふと思い出したように壁に掛けられた時計に視線を動かすと、とっくに下校時刻を過ぎていた。 どうやらそれを知らせるチャイムにも自分は気付かなかったらしい。


(もうこんな時間……、なんか今日は集中できないなぁ…)


優真はこめかみを指で押さえる。
疲れているのだろうか、朝からぼんやりとする頭に違和感を覚えた。


(…寝たら治るか)


だが、己の性格からかあっさりと自己解決してしまう。

ぐたぐだと考えても仕方ない。 きっと寝不足のせいだ。 十分な睡眠を取るためにも出来るだけ早く帰らなければ。

そう結論づけた優真は急いで散らばった勉強道具を鞄に仕舞うと、すぐに図書室を出た。