桜の木の誓い

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ん…という自分の声で優真の眠っていた意識は浮上した。 ぼんやりと薄目を開け、入ってきた微かな陽の光が少し眩しくて再び瞼を閉じる。


こんなにも穏やかな朝を迎えられたのは何時ぶりだろうか。


小さな鳥の囀りも、遠くの方から聞こえてくる隊士たちの元気な声も、風にのって屯所中を漂っている食の匂も、何だか懐かしい。

ずっと付き纏うようにしてあったもやもやも今は跡形もなく消え去っていて、重く圧し掛かっていたものから解放されたような……――そんなすっきり感が身体中を満たしている。


閉じていた瞳を開けながら上半身を起こし、優真は手櫛でおろされた長い髪を軽く整えた。 


――今思えば、逃げていただけかもしれない。


楽なほうに楽なほうに、と。
浪士組に入ってからはっきりとつきつけられた死への概念の違い、そしてこの時代の人の内なる強さ。

ここにきて明らかとなった時代の、育ってきた環境の差への戸惑いを気付かれないように必死に隠すことで何とかやってきた。 


自分の都合で人を巻き込みたくなかった。


だけどそれも、佐々木とあぐりさんのことで……。 それが限界だったのかもしれない。

あんなことがあってもすんなりと何事もなく日常に戻ってゆく周りに、違和感を拭い切れずについていかない自分に気付いていた。 
でもそこで、ずっとひっそりと隠してきた感情を出すのは躊躇われて…、崩れそうになる足元を見ないように、気付かないように、そうすることでまた乗り切れると思った――不安定な足場を無視して。


それがあのたった、たった一言で脆くも崩れ去った。





「……よし」

自分に気合を入れるように呟き立ち上がった優真は布団を畳むと、寝着の帯を緩める。


昨夜のあの言葉に救われたのは確かだ。


弱くてもいいんだと云われたような気がして、誰かに聞いて欲しくて縋りたかった思いが自然と口から零れた。

佐々木とあぐりを貶めた奴のことも、自分に弱い部分があることも、完全に解決したわけではない。


……でもまずは、


(進むきっかけをくれた斎藤に、)


――礼を言おう。


袴に身を包んだ優真はしっかりと前を見据えた。