桜の木の誓い


「そんなところに突っ立ってよぉ、なーにしてんだ? …もしや慕う女のことでも考えてたってか?」


寝起きを共にしていても一切色恋沙汰が耳に入ってこない上に、務め以外で好んで色街に行こうとしない斎藤に限ってそれはないだろう、と冗談交じりに笑いながら言った原田は何時もは淡々と返ってくるはずの返事がないことに、ふと斎藤の顔を窺い見た。

途端、原田の上げていた声は次第に薄れ渇いた笑みへと移り変わってゆく。


「ハハ、ハ…ぁ、れ…えっ……ほんとに?」


原田は驚いたとでも言いたげな表情を見せる。
――が、次の瞬間にはニタァと妖しい笑みを浮かべていた。


「いや〜〜そうか、そうか。 てっきり冷たくあしらわれるかと思ったけどよっ、そんな顔するとはやっと目覚めたんだな! わかった! ここはこの原田様がはじめに色々と伝授してしんぜよ…」

「……いい!」


ばっさりと跳ね返すと斎藤は顔を背け、一刻も早くここから立ち去るべく足を自室へと向けすたすたと原田から離れる。

後ろで照れ隠しとか何とか聞こえたがそんなこと、今はどうでもいい、というか考える余裕がなかった。


(どんな顔をしていたんだ、俺は…!)


原田にああ言わせた自分の表情が無性に気になった。


 ざわり


少しの間納まっていた胸のざわめきが波紋のように広がり、何かが自身の隅々まで侵食していく感覚が襲う。

原田と話して更に酷くなったその感情が何なのか、斎藤には全く以って分からなかった。