目の前の沖田は本当に何か分かっていない様子で、困惑した表情を真っ向から向けてくる。

これがもし演技だとしたら凄い役者だ、引き攣る顔を必死に堪えながら優真は密かにそう思った。


「冗談でしょ……」


優真の小さな呟きを拾った沖田は、そんなにがっこうとは有名なんですか、なんて訊いてくる始末。


「……本当に知らない? 学校ですよ、学校。 義務教育で貴方も行ってたよね? 知らないなんてありえないと思いま……っ…」



はたと優真は、自分が何かおかしなことに巻き込まれているような気がした。

悪寒が躯の底から駆け巡る。

今頃になって覚醒したばかりで働きの鈍かった頭が何時ものように動き始め、沖田との会話で得た情報が急速に整理されていく。



(そもそも自分はあの桜を見ようとして、頭を打って…そこで気絶した……だったら何で私は学校じゃなく道外れに? 学校を知らないことは置いといて、この沖田さんが嘘をついてるとはどうしても思えない。 誰かが私を運び出した? それならなんの為に? …あぁ、意味が分からない)



どんな方向に考えても矛盾が生じる。

そんな堂堂巡りに、眉間に皺を寄せていた優真がスッと何気なしに視線をやった場所に、あるものが置いてあることに気付く。



それは沖田の背後に静かにあった。