桜の木の誓い

斎藤の着物を縋るように掴む今の優真は呼吸荒く泣き、その表情はきつく歪められている。



「…ま、だ……屯処にっ……いるような気が、して…」



言葉は苦しそうに震える声で吐き出され、



「あのときの…あの時の佐々木の顔がっ、頭から離れない…!」



奥底で蓋をしていた思いが一気に溢れ出す。叫ぶように口から出たのは優真の隠された“悲しみ”だった。




『立花先生、お世話になりました』


そう言って幼子のように笑った、最後に会った時の佐々木の表情が頭の中に鮮明にこびり付いている。

まさかあれが数刻の間に変わるなんて思いもしなかった。

もう笑うことのない涙痕の残った顔は一瞬見ただけで脳裏に焼きつく程の痛みを与え――……。

どんな思いで、何があったのか。

そう考えれば考える程、現実ではないようなまるでどこかの物語のような気がして。


…だけど本当は分かっていた、


「もう…佐々木も…あぐりさんも…」


――いない。


ポツリと口から零れたその言葉がじわり、じわりと優真に染み込んでゆく。流れる血が急速に冴え渡り、二人がいないという現実が身体中を支配し、……実感する。

優真の中で止まった時が終わりを告げ、ゆっくりと動き始めた。




「受け入れろ」


今まで黙っていた斎藤が静かに言った。突如頭上から振ってきた言葉に優真は斎藤の顔を見上げる。


「現実から目を背けるな。 己が受け入れなければ何も始まらない」


受け入れるということは、すべてを理解し受け止め前へ進むこと。自身の内なる強さが必要不可欠なそれは簡単のようでいて難しい。


「…お前なら出来る」


そして自分を包む腕に力が入るのを優真は感じ、未だ溢れ出る滴を噛締めるように瞳を閉じる。苦手意識を持っていた、人を見透かすように貫く斎藤の鋭い瞳が、今は何だか心強く思えた。