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微動だにしない優真の姿を見つめるのは……―――つい先程信太郎と別れたばかりの斎藤だった。

普段ならば気付くはずの人の気配に優真が反応を示さない。その様子に斎藤は眉を顰め、それ以上近付くことを躊躇った。

――そして気付く。


(泣いて、いるのか…?)


欠けゆく月の僅かな光に照らされた、優真の頬を濡らすものに。

ふわりと軟らかそうな優真の髪が風に靡き、何時もはしっかりと結われた黒髪が少し乱れる。

斎藤は思わず息を呑んだ。

その様は今にも跡形もなく消えてしまうのではないかと錯覚さえ起こしそうな程、儚さと魅惑を含んでいた。


「………ッ、」


何故かその姿に胸が締め付けられる。

それが何からくるものなのか、今の斎藤には分からない。否、本当は内なる奥底で分かっていながらも咄嗟に“そんな筈はない”と気付かぬ振りをしているだけかもしれない。


斎藤がこの心情に困惑したのも一瞬のことで、眉間にぐっと深く皺を寄せると持ち直したように優真の方へ歩みを進め始めた。

静寂のこの地に響くはザッザッという擦れ音のみ。

それほど距離はない為すぐに傍まで行けたが、それに優真が気付く様子はない。


「……おい」


そこで初めて優真は振り向いた。
ゆっくりと、虚ろな瞳で見上げてくる姿が斎藤の視界に入る。


「……なん、で…」


何も映されなかった優真の瞳に、小難しい表情をした斎藤が映しだされた。