「………」



じんわりとした暑苦しさを感じながら、優真は京の町を見下ろしていた。少し向こうの方には煌びやかに色めく夜の町、島原の灯りがちらほらと見える。


…何故こんな事になってしまったのか。


最近の優真はこればかりだった。
巡察をしていても食事をしていても、何時の間にか意識はそちらに持っていかれる。

もし隊務中にそんな状態に陥っていたら危険極まりないのは目に見えている………――しかし。

何とかしなければ、そう思えば思う程、今の現状から進めずにいた。



そう。

これはまるであの時のようだ。

まだ幕末に来たばかりの頃の心境に似ている。


(あの時はどうしたっけ………あぁ、)


 ――温かかったんだ


(試衛館の皆が…)


あの、何とも言えないあそこの人々の心の温かさに動かされた。




瞳からはツツー…とひと滴の涙が零れ落ちた。それは、まるで遠い昔の様に感じる江戸での日々を思い出してのものだった。

優真は自身の頬を流れるものにまだ気付いていない。

この時には既に優真の思考は別のところ、つまり、夜がきたら必ず朝がくる様に再び佐々木のところへと戻っていた。




その為か、背後でパキッと小枝が踏まれる音がしても振り向くことはなかった。