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「――どいつもこいつも分かっておらんな」


俺があいつを嫌い?
……フッ、笑わせてくれる。

林にしろ、山崎にしろ、……あぁ、土方副長や沖田もか。早とちりの上に勘違いだと気付きもしない。





俺は――、


「嫌っているわけではない」


相次を、立花優真を。





「…え?」


瞬きをするのも忘れて目を見開いている林の涙は、どうやら引っ込んだようだ。

林は穴が空くのではないかというくらい俺の顔を見つめてくる。

だが、それも少しの間で「え、なんで?」と洩らすとぶつぶつと思考に耽りだした。その表情は酷く動揺していた。



「――おい。 相次は何時もの処にいるのか」

「…はぃ?……まさか…! 斎藤さんは気付いて…」

「やはりあの場所か」



知っていた。

立花が俺や他の者に気付かれまいと、刀を奮った後は人の通らぬ場に行き、その傷みに耐えていた事を。

斬り合いの後決まって消える立花を怪しく思い、後をつけて知った真実。

そこまでして。己を犠牲にしてまで、同志を守りたいという思いを理解出来ないと同時に―――俺は立花の根強い信念を知った気がした。



「斎藤さん、何をするつもりですか? また先生にきつい言葉を言うんですか」

「今の相次は見てられん。 悪いようにはしない、安心しろ。 まぁ、厳しい言葉を言ったのは……女である相次の信念の強さを知りたかったのかもしれんな」



今、しかと受け取ろう。

お前のその“信念”とやらを。



謎めいた言葉を残し去って行く斎藤の後ろ姿を、信太郎はポカーンと口を開けて見ていたのだった。