桜の木の誓い

「先生…?」


がらんとした部屋の様子から優真が不在だという事が分かった。


(…居ない)


何となく勢いで部屋へと訪れてしまった信太郎は、優真の姿がない事に少しだけ安堵する。

今の自分に出来る事はない。

そんな事を思い信太郎が深い溜息をついた時、ポンッと肩を叩かれた。


「何をしているのですか?」

「…沖田さん」

「優真さんは…いませんねぇ」


信太郎の肩越しから部屋中を覗いた沖田は首を傾げた。


「こんな時刻に何処に行ったのでしょう」

「…先生は独りになりたいんだと思います」

「……」


フッと目を細め信太郎に強い双眸を向けた沖田の表情は、普段からは考えられない程の冷たさを含んでいた。


「信太郎君は知っているのですか、優真さんが何処に行ったのかを」

「確信はないですけど」


確信はない、だが予想は容易にできる。

あの人は己の心が乱れそうになると、何時も独りで屯所近くのひっそりとある丘に行く。

人を斬ったとき。

仲間が斬られたとき。

決まって優真は行くのだ。
自然と足が向かうのだと、信太郎は一度耳にした事があった。


「そうですか……今の優真さんには時が必要でしょう」


この人も気付いていたのか。


「僕はどうしたらいいのか分かりません」

「…ふふっ、信太郎君は本当に優真さんがお好きなんですね。今は様子を見ましょう、これは優真さん自身が乗り越えなければならない問題ですから」


眉尻を下げ悔しそうに顔を歪めた信太郎に、沖田は親が子に言う様に優しく言い聞かしたのだった。





しかし、その夜。
優真は戻ってこなかった。