あぐりは、先程の声が佐々木のだと理解するのに時間は掛からなかった。

どさりと人が地面に倒れる様な音がし、瞬時に振り返る。



「愛次郎様!」



反対側へ向けていた足先を返し、あぐりはうつ伏せに倒れている愛しい人の元へと駆け寄った。

見ると、背中が肩から腰に掛けて斜めにざっくりと斬られていた。



「…ぃや、っ……いやーー!」



あぐりの悲鳴にも似た叫びが辺りに響き渡った。

躯が、手が、小刻みに震え出す。

まるで目の前の信じ難い事実を拒否するかの様に──。


(血が、…そんな……!)


傷口からどくどくと流れる紅黒い液体が瞬く間に佐々木の袴を染めていく。

佐々木はあぐりを守る為に立ち上がろうとするも、肉体は己の意志に反して動いてくれない。



「……り……あぐり……っ…逃げろ」

「っ、いやです!愛次郎様を置いては行けません!」



苦しそうに顔を歪め、途切れ途切れ振り絞るように話す佐々木に、あぐりの目から流れ出る涙は止まる事を知らない。

ぽたっ、ぽたっとあぐりの哀しみの涙が佐々木の頬を濡らしてゆく。







その様子を残酷な双眸で見つめる者が、追い討ちをかける様に二人の背後で動いた。