「…佐伯さん、は、何処に…?」


恐る恐る絞り出す様に言葉を繋ぐ。

返ってくる答えなど分かり切っている筈なのに、優真の口から自然と出てきた言葉はそれだった。


「ん?佐伯か?あぁー…、んにゃ、そう言えば一刻ほど前から姿を見ぬな…」


芹沢が怪訝そうに言ったのを聞いて、優真の頭の中でカンカンカンカンと激しく警報が鳴りだす。


 危ない


 危険


 ダメだ


そんな言葉が駆け巡る。


(もう佐々木の元に佐伯は……)


“手遅れ”


一瞬その事が頭を過るがいやいやと直ぐに消し去り、まだ判らないと考えを改め直す。


「お主、先程から変だぞ。何をしに此処に来た…って、立花!――ったく、何なんだ相次は。芹沢先生、続けましょうか」


突如、血の気のない顔で部屋から出ていった優真に驚愕しつつも新見に気にした様子はなく、再び芹沢に酒を勧め始めたのだった──…。








「………」

「あらら、何やこれは」


使い物にならなくなった襖の部屋の中で酒臭い平間が伸びている。

この何ともおかしな状況に唖然とする者が二名。



───斎藤と山崎だった。



「ここって優真の部屋やんなぁ?何でコイツがおんねん」

「知らん」

「うーん……平間の奴、優真に何ややらかしおったなぁ」



うんうん、としみじみ頷く山崎。

一緒にいたわけではないが、偶々優真の部屋の近くを歩いていた二人は、この静かな夜に似つかわしくない大きな音が聞こえて何事かと走ってきたのだった。



「――っで、肝心の優真は何処に行ったんや。まさか……やっぱりあれに関わってるんとちゃうよな」

「あれとは?」

「幹部には直ぐ伝わるやろぉし、斎藤さんに言ってもいいやろ。あんなぁ、佐々木愛次郎が此処を出ていってん」

「それはどういう事だ?」



ピクリと瞬時に興味を示した斎藤の表情は険しかった。