優真には引っ掛かる事があった。
この際、酒の力でこんな事をした平間は置いておこう。
結構な量を飲んだらしい平間の足元はしっかりしておらず、寧ろ今は優真に寄り掛かっている状態の男に危害は加えられない筈。
それよりも、
「何であぐりじゃない……」
優真の引っ掛かる事とは芹沢の女の事だった。
──おかしい。
そう。おかしいのだ。
もしここで芹沢の夢中になっている女の名が出るとしたら彼女、“あぐり”。
佐々木の話を聞く限り、彼女しかいないだろう。
だが、先程平間の口からは優真の知らない女の名。
平間が嘘をついているとは思えない。ここで嘘をついても彼に何の得もない。それに泥酔状態の彼が何か、を企んでると考えるのは難しく──。
(だとしたら、)
平間達にも構わずお梅一人に酒の金を注ぎ込む程熱を上げている芹沢が、お梅ではなくあぐりを妾にしようとする可能性は低いのではないか。
「あぐり、あぐりって、誰だそいつはよぉ」
先程の優真の呟きを拾った平間がボソッと問いを放った途端、優真の頭の中でガタガタと全てのパズルのピースが繋がる音がした。
「ま、さか……!」
「あぁ?なに言って―――う"ァ!」
突如上がったバンッ、と何かが何かにぶつかる様な大きな音がしたと同時に、男の苦しみの含んだ呻き声。
どうやら、優真は平間を無理矢理突き放したらしい。思いのほか飛ばされた平間は襖にキャッチされて。
襖は外れ破れ、肝心の平間はぴくりとも動かず。
その現場を一瞥する余裕もなく、優真は大小の刀を手に部屋を飛び出していた。
目指すは、あの人物が居るであろう場所へと。

