「それ…私のじゃなかった?」

「あれ?そうでしたっけ」

「はぁ…、もういいよ」


甘い餡子の入った饅頭が沖田の胃袋へと消えてゆく。


「で?お金はどうしたの?」

「そんなに知りたいですか?しょうがないですね〜………実は借りたんです」

「は?誰に?」

「土方さんです」

「………」




優真は悟った。

沖田は借りたんじゃない、土方の懐から盗んだのだと。


前にも一度そんな事があったのだ。
甘味を口にしないと禁断症状が出て隊務が出来ないと言い、勝手に土方の懐からお金を借りた事が。

その後、土方にバレて沖田はこっぴどく叱られる羽目に。沖田はぶつぶつと文句を洩らしていたのだが、自業自得としか言い様がないとその時優真は思ったのであった。


「あ」

「どうしまし……あらあら、どうやら見つかってしまった様ですね」

「ゴラァァァ!総司、お前はまた俺の金を甘味に使っただろぉがっ!」


向こうから般若の様な何とも恐ろしい形相をした土方が、屯所中に響き渡りそうな大声を出して此方に走ってきている。

その目は血走っており、もし今彼を妨害しようものなら、その者の首はないだろう。

いやはや、恐ろしい。



「ぷくくっ、土方さん楽しそうだなぁ」


(いや、どうみても土方さん怒り爆発って感じだけど)


あんなおっかない者に追い掛けられたら堪ったもんじゃない、と優真は沖田のキラキラと輝いている眼を見て、有り得ないという表情をした。


「土方さーん!こっちですよ〜」

「お前、逃げるな!止まりやがれぇぇ!」

「えっ?鬼ごっこしたいんですか、土方さん」

「あ"あ!?そんな訳ないだろっ!なめてんのか、おちょくってんのか!?」

「アハハハ〜、どちらもですよ〜」


優真は今、正に、眼前で始まったお世辞にも遊びとは言えない鬼ごっこを尻目にその場を去った。

心底彼らは仲が良いなぁ、と思いながら。