「た、立花先生、どうして此処に…?」
「…偶々だよ」
そう言って優真は押し黙った。
訊きたい、でも訊いていいものかと二つの思考が葛藤する。
その様子に佐々木は顔を背け、「見ていたんですね」とポツリと呟き、そして言葉を続けた。
「話は聞きました?」
「…聞いてない」
「そうですか」
それきり佐々木は口を閉じた。
暫くお互い何も話さぬまま時が過ぎる。生温い風が二人の間を通り抜け、去ってゆく。
優真からは佐々木の表情は見えないが、何故だか佐々木の背中が何かを訴えかけている様な、そんな気がした。
「…何か、あった?」
静かに、でも確実に訊いた。
これで「何でもないですよ」と返ってくれば、それ以上何も訊く事はない。
勿論、問いただすつもりもない。
でも、もし話してくれるのなら──…。
「………先生、私はどうしたら良いのでしょう」
佐々木は小さな、本当に小さな声で言葉を放った。それはしっかりと優真の耳に届く。
(…話すんだね…)
話してくれるのなら、自分のできる事はしようと考えていた優真。
何時からだろう。
此処の、自分を慕う隊士達を大切だと思うようになったのは。
初めは只の他人……いや、もしかしたら初めて会った瞬間からもう大切な存在だったのかもしれない。──試衛館の皆の様に。
優真はフッと笑みを洩らし、佐々木へと視線を向ける。その双眸は見る者を刺し殺すかの様に強い。
「言って、何があったのか」