東京エトランゼ~通りすがりの恋物語~



“ホスピス”っていうは、もう治療しても治る見込みのないガン患者さん達が人生最後の時間を過ごす施設のこと。


「でもさ、おふくろ、もともとすごくおしゃれなヒトだったから、抗ガン剤の影響で髪の毛なんか抜けはじめてるのに、俺が見舞いに行くとさ、いつも小奇麗なカッコしててさ」

「………」

「そんで、あるとき、俺に言ったんだよ、“病院とか施設にいる患者さんの髪の毛を、出張してカットしてくれる美容師さんっていないもんかねぇ?”って」

「そっか…それで、そーいうことができる美容師さんになろうと思ったワケか…」

「そうさ。だから俺、夜はひとりで自分なりに美容師の勉強をしながら、昼間はこうしてボスのところに見習いとして実技の勉強をさせてもらってるってワケさ」

「へぇ、昼間、働いて、夜、勉強してるなんてエライね」

もし、あたしだったら、昼間の仕事だけで疲れて、勉強なんてしないと思う。…ってかゼッタイしない。断言できる。

「いつかはさ、ボスに“のれん分け”してもらって、病院とかいろんな施設にいる普段美容院に行けない人たちのための“移動美容院”みたいなのを作りたいって思ってる」

「ふぅん…」