「おふくろのせいさ」
「あ~、ママが美容師さんだったんだね」
彼も“王様のショコラ”のパティシエ=凱と同じで親と同じ仕事に就いたってことか。
親の背中に付いていくカタチで将来を決めるってのも、まぁアリといえばアリなんだけど、じゃあ、あたしの場合、将来は外資系商社のサラリーマンってことになるのかな?
だけど、あたしが頭の中で勝手にいろいろ思っているうちに、彼はあたしの予想をまったく裏切るような返事をしてきた。
「全然違う。日舞(にちぶ)の……日本舞踊の先生だったんだ」
「踊りの先生?」
あたしの中で日舞の先生のイメージといったら、綺麗に結い上げた黒髪に、和服姿で、扇子を持ったこざっぱりとした年増の女のヒトというカンジかな?
「でも、踊りの先生と美容師と、どうつながるワケ?」
「俺がまだ中学生だった頃、おふくろ、日舞の稽古をつけてる途中で、生徒さん達の目の前で突然倒れちゃってね」
「え…?」
「すぐ救急車で病院に担ぎ込まれたんだけど、もう末期のガンにやられちまってて、そのままホスピス行きさ」


