東京エトランゼ~通りすがりの恋物語~

“未熟”といわれた彼のブローのテクニックになんの不安もないわけじゃなかった。

でも、それは杞憂(きゆう)に終わった。

まるで白いキャンパスに向かう画家みたいな真剣なまなざしで、丁寧かつテキパキとした手際で、黙々とヘアースタイルを仕上げていくその様子は、まさにアーティストの創作活動を見ているみたいだったからだ。

「あの……今、話しても大丈夫かな?」

「ン?」

「話かけたら気が散るかな?って……」

「全然大丈夫だよ。美容師の仕事は髪をカットするのと同じくらいお客さんと話をすること……つまりコミュニケーションをとることが大事だし、ま、言ってみりゃ、おしゃべりも仕事のうちってカンジかな」

たしかにこのヒトはおしゃべりがうまいと思う。自然とあたしのココロを開かせて、まだ出会ってから1時間と経っていないのに、いつのまにか、ずっと前から知ってるヒト同士みないなカンジになっちゃってるし。

「じゃ、訊いていい?」

鏡のほうを向いたままあたしが訊く。

「どーぞ、どーぞ♪」

鏡の中の彼はブローをしながら答える。

「さっきさ“あのヒトみたいになりたいから厳しくても付いてく”って言ってたけど、そもそも、なんで美容師になろうと思ったの?」