あたしがひとりで問わず語りの物語を続けているあいだじゅう、彼はちゃんと美容師さんのお仕事をしていてくれたってことだ。


「まだムースの中に溶け込んだガムが混じってるから、このあとシャンプーで洗い流したら、それでカンペキさ♪」

「ありがとう。あたし、バッサリやるしかない、ってもう諦めてたんだけど、おかげで自慢のロングヘアーを切らなくてすんだよ」

「どぅいたしまして♪ 俺はコレでメシ喰ってまァ~す♪」

まるで魔法でも使ったみたいに思えちゃうけど、これは彼の美容師としての専門的な技術にシッカリと裏付けられたプロだからこそなせるワザだ。

あたしがもう不可能だと思っていたことを可能にしていながら、自慢げな態度をとるでも、威張るでもなく、あくまで彼は気さくなカンジだった。


「…で、どうする? ガムも取れたことだし、今回はカットやめとくか?」

「ううん、せっかくだから気分転換のためにも、お願いするよ」

「じゃ、どんなカンジにする?」

「デジタルパーマで、くるりんっておねーさん風にしてほしい」

「キミ、高校生だろ? パーマって、ひょっとして校則で禁止されてるんじゃね?」