東京エトランゼ~通りすがりの恋物語~



…とはいえ、ロングヘアーにサヨナラすることになんの未練もないわけじゃなかった。

もしも、あんなことがなかったら、これからも多分ずっと伸ばしていたと思うし。

カットするのはヤッパ辛い。

いや、今はカットする以前に、髪を見られることじたい辛い。

それはあたしの髪を“綺麗”と言ってくれた彼に、あたしの髪の毛の“綺麗じゃないところ”を見せるのがすごく恥ずかしかったし、情けなかったし、辛かったから。

でも彼以外の他の人に見られるのはもっとイヤな気がした―――――



結局、一瞬の間のあと…、



「………」



あたしは黙ったまま、美容院に行くまでのあいだ髪をアップにしていた“くちばしクリップ”を外して、ツヤツヤでサラサラなロングヘアーを地球の引力にまかせて解放した。

そのときクリップを外すために、あたしが振り絞った勇気のチカラは、たぶん男の人の前ではじめてブラを外すのと同じくらいの勇気のチカラだったんじゃないかと思う…。