東京エトランゼ~通りすがりの恋物語~


「こーいう場面では“おはよう”って言うのがニッポン人よ。ダメね、アメリカ育ちは。日本語の朝のあいさつも知らないんだから」

あたしにかまわず、自分の席に着くと、マフラーと手袋を取って、早速カバンから問題集を取り出す彼女。

「こないだ英語の答えが間違ってることを、みんなの前で指摘したのを根にもってるんでしょうけど、文句があるならネットじゃなくて、面と向かって直接言いなさいよ!」

「ネットって、なんのこと?」

「とぼけないで!」

「よく分かんないけど、あたし、そんなの、やってないよ。そんなヒマがあったら、単語の一個でも覚えたほうがトクだし」

「じゃあ、あの中傷メールをバラまいたのがアンタじゃないっていう証拠でもあるの!?」

「ないよ」

アッサリと言う彼女。目はあくまでも問題集のほうに向けたままだ。

「あたしが犯人だと思いたければ思えばいいよ。あたし、別に栗栖さんに好かれたいとは思ってないし」

「じゃあ、あたしもアンタが犯人だと仮定して言うよ! 今度あんなことしたら、あたしも先生に言い付けるからね!!」

そう言って、“ドン!”とグーの両手を力の限り彼女の机上に叩きつけるあたし。