「芳樹、もう時間がない。
お腹の子供はもうダメだった。」

おじさんが俺を呼びにきた。


窓は少しだけ明るくなったような
そんな時間になっていた。


さきに俺が一人で入った。



酸素マスクをしていた。


「奈楠・・・」
名前を呼ぶだけで声が
震える。


奈楠の目が静かに開いた。


「よ…しき……」


俺は覆いかぶさるように
抱きしめる。



マスクをとりたがった。


おじさんがマスクをとって
病室を出て行った。


「話したいこと…
こんなにいっぱいなのに……
もうすこ…し…じか…んがあるって
思って…たのに…」


消えそうな息が
必死に言葉を発してる。


「やっと会えたのに
やっと抱きしめられるのに
俺ずっと待ってた。
今度抱きしめたら絶対離さないって。」


「会えて……よかった……
私…雪…きれいにしてくれた?
天国いける?…この子と……
一緒に……逝きたいの……
さびしくないよ……
先生に体から出さないでって
おね…がい…した。
もう先にこの子……動かなくなってた……
ママ失格だね……」


涙が流れ落ちる。


「運命…には逆らえない…
糸は必ず導いてくれる……
あなたの……存在が希望だった……
愛してる……
もう一度会えて…うれしかった。」

大きなため息をついた。


「あなたの糸は……
ここに…つながってる…
よかった…伝えられて……」