話を全て聞いた杉里さんは、
「ぼ、僕はいいですけど、師匠が…」
と、呟くように返した。

お父さんのことだ。

杉里さんの師匠は、和菓子職人であるあたしのお父さんである。

お父さんは、“厳”と言う言葉が似合うくらいの厳しい人だ。

とにかくお父さんに関しての思い出は…うーん、厳しかった思い出しか思いつかない。

確かにこのことがバレたら間違いなく恐ろしいことになる…。

しかも許嫁がいるなんてウソをついたから、松田家に血の雨が降ることは決定である。

けど、今はそんな問題じゃない!

問題は松田家じゃなくてあたしで起こっている!

「とにかく、お願いします!」

あたしは言った。