「返すのはいつでもいいから」

「あ、はい」

俺が返事をしたことを確認すると、石楠花先生は俺の前を立ち去った。

さりげない行動なのに、何だか特別に思えた。


「それでどうしたの?」

鼻血がついた俺のシャツを洗いながら、リコ姉ちゃんが聞いてきた。

「別にどうもしねーよ」

俺は答えると、リコ姉ちゃんが出してくれた麦茶を飲んだ。

「しかし、あんたもすごいもんだね」

リコ姉ちゃんが言った。

「はっ?」

そう聞き返した俺に、
「電信柱に顔面をぶつけるなんてマンガみたいじゃない」

リコ姉ちゃんが笑いながら言った。

「うっせー」

俺は石楠花先生のハンカチに視線を向けると、
「ハンカチは俺が洗うから」
と、リコ姉ちゃんに言った。

「ふーん、珍しいじゃん」

「別にいいだろ」

そう言うと、俺はグイッと麦茶を一気に飲み干した。