「…ねえ……」

誰かが私の肩をゆすっている。
私はハッと我に返り、体を起こした。

どうやら授業中に眠ってしまったらしい。

声が聞こえた方角へ目を向けると
ぱっちりとした茶色の目が目に入った。


きれい――

目が合った男は整った顔をしていた。
今の言葉で言うと、男前だと思えるくらい。


女子にはさぞかしモテてるのだろう。

そんな想いで彼を見ていると、
彼の口がかすかに歪んだ。

…もしかして私の事を笑っている?

その男はクスクスと微笑していた。


「佐崎さんて面白いね。川瀬、ずっと怒鳴っていたのに」


川瀬とは古典の担当のいわゆるハゲ先生だ。
っていうか私の事を怒鳴っていた?


「私のこと、怒鳴っていたの……?」

「うん。イビキ凄かったもん。俺も笑っちゃった」

「あはは…ごめんね、授業の邪魔、しちゃって」


そう謝ると男は「いいえ~」とまた笑っていた。
そして男はニッコリとしながら私の前から立ち去った。


……しまった。

私は頭の中でずっと後悔をしていた。
古典はいつも3なんだもん、10段階の成績で。

ってことは…

授業中寝てた+イビキ野郎だったってこと!?
そして授業が終わるまで寝てるなよ、私!!


寝るって…私、度胸あるな。
それから半泣きになりながら黒板のことを写した。


だからそれからの授業はずっと上の空になっていた…