その日、朝一番にやって来たのが、今、目の前に座る前田 武だった。

オープンの30分前に


「すいません!開けてください!」


と大声で叫びながら、店のドアを激しく叩いていた。

化粧もまだ終えていないしのぶは慌てた。


「申し訳ありません。
まだ準備の途中なので…」


声をかけると、男は切羽詰まった声で叫んだ。


「お願いします!」


騒ぎを聞き付けた柊とサクラが駆け付け、男はようやく大人しくなり、しのぶは月華としての準備を終えることが出来た。


「お待たせしました。
どうぞお入り下さい。」


ドアを開けると、男は飛び込むように店内に入ってきた。


「おかけ下さい」


丸テーブルの向かい側に男を座らせると、しのぶは男を観察した。