一歩間違えば自分が殺されるかも知れない事はわかっていたが、不思議と臆する気持ちは生まれなかった。

「すまないがバイクを譲ってくれませんか。俺にはどうしても会わなきゃならない人がいるんです」

 俺の目のほうが殺気に充ちていたかもしれない。。

「その人に会えなければ今生きてる意味もないんです。ここで死のうが同じことです」

 そこまで言うとドライバーを持ったまま老人に歩み寄った。銃口は胸に突き立てられ、そして数秒の間老人と視線を合わせる。このまま銃を取り上げるのは簡単な事だったろう。

 だが、もう人を害したくはなかった。

「どこまで行くんだ?」

「福岡まで」

「そんなら車をやる」

 老人は銃を下げ『待ってろ』と言って家の中へ入って行った。

 予想外の成り行きに驚き、そして胸を撫で下ろした。落ち着くと殺されなくて良かったと、やはり思ってしまう。

 やがて老人は鍵を持って出て来た。